名古屋地方裁判所 昭和25年(行)9号 判決
原告 小川貞吉
被告 国
右代表者 法務総裁
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は昭和二十二年五月憲法発効日以來昭和二十五年四月三十日に至る各種綜合の徴税は立法司法行政の最高法規である日本国憲法の意志に反したものである、訴訟費用は被告の負担とし損害を賠償すべき旨の判決を求めると申立てその請求の原因として、請求の趣旨記載の期間の徴税は最低生活費以下からの徴税であり国民生活権の破壞である、企業者および権利物件所得者には経済原則上二割ないし三割以上の所得を得ることができないとの鉄則があるにもかかわらず、所得による経営維持生活擁護を不能ならしめる所得の二倍三倍の徴税を強制し差押処分に付した、これは收入皆無以上の課税であり担税者およびその家族に死刑の判決を下したものである、その結果国民経済ならびに人生観を惡化せしめ極惡な犯罪、一家心中、自殺の惨事を惹起している。
吾等の生存権は法律以前に自然法理として人間に與えられたもので自殺さえも罪惡視されている、この世紀に公然と死をば與える税法規はまさしく人類無視および最高法規である憲法意志に反逆するものであるから本訴に及んだと述べ、被告指定代表者は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として裁判所は訴訟の当事者間に法規を通じて具体的に現われる処分または権利関係についての法律上の紛爭が存在する場合においてその紛爭を解決する所である。從つてその解決を求めるについて自己に法律上の利益のない事柄について訴訟を提起することはできない、しかるに原告は何等具体的に処分または権利関係を訴訟の目的としないで單に抽象的に昭和二十二年五月憲法発効日以來昭和二十五年四月末日に至る各種綜合の徴税が日本国憲法の意志に反するとして徴税処分の無効宣言を求めるもののようである、それ故かような請求は権利保護の要件または当事者適格を欠くものとして速やかに棄却さるべきであると述べた。
三、理 由
裁判所は日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の爭訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有することは裁判所法第三條の明定するところである。しかるに本件は原告が昭和二十二年五月三日から昭和二十五年四月末日にいたるまでの各種徴税処分を憲法に適合しないものとしこれを是正するため一般人として出訴するというに在り、原告自身と被告との間における具体的な権利義務に関する爭についての訴訟でないことは原告の主張自体明らかであるが、いわゆる法律上の爭訟とは法律の適用により解決調整さるべき主体間の具体的な利害の対立紛爭による事件をいうのであるから本件のような当事者間における具体的な権利義務に関する爭を問題とするのでない事件は、これを法律上の爭訟とすることはできない、しかも租税徴收について不法を是正するため一般人に訴訟を提起しうべきことを認めた特別の法律の規定は存在しないのである。これによつてみれば本訴は裁判所に出訴し得ない事件であつて訴の要件を欠くものとなすべきであるから原告の訴を却下すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條に從い主文の如く判決する。
(裁判官 竹田哲 小淵連 高橋正蔵)